ten little tricks(テン・リトル・トリックス)
著者 こざわまさゆき
初版 2017/06/30(電子版)
定価 2,000円(79ページ)
マジックの専門書は種や仕掛けの解説がメインになることが多く、プロットや演出の紹介に重心を寄せている本は意外と少ないので久しぶりに創作意欲を刺激されました。著者の生半ならぬこだわりが感じられる本です。
Chapter 1 - Counterfeit
天秤パズルという知的興味をくすぐる演出が秀逸です。この本に出会えたのも奇術研究家の谷英樹さんにこの作品を教えてもらったのがきっかけでした。サロンでも充分演技可能で、私も気に入って常にお皿を持ち歩いています(笑)第三段目では谷さんが演じられている観客に当てさせるという演出アイデアを私も採用しています。反応が段違いなのでオススメです。ちなみにお皿は100均ショップで買った割れる心配のない竹製の見た目ちょっとオシャレなやつを使ってます。
Chapter 2 - Ambitious Royals
マルチプルリフトを使わないダブルアンビシャス現象。
同じ技法を三度繰り返すのが気になるところではありますが、タマリッツの”Double Ambitious”と比較するとかなり難易度は低く、演じ易くなっています。
Chapter 3 - Magician vs. Gambler vs. Mathematician
有名なプロットですが、この作品では数学者、ギャンブラー、マジシャンの順にそれぞれがカードモンテをおこなうとどう違うのかをデモンストレーションします。
まずこの作品を演じるのであれば数学では有名なモンティ・ホール問題を理解しておかねばなりません。マジシャンが自分の演技で使っている話題を理解していないようでは話になりませんので、この本で勉強しておくことをオススメします(笑)手順においては著者自身も言及している通りスイッチの方法が読んだ人にとってはいろいろ気になるところだと思います。私だとスイッチのタイミングをほんのちょっとだけ遅くして、テーブルの二枚を観客に表返して見てもらっている間にスイッチしてデックはケースの中にしまいます。数学者のパートでは観客が混ぜる方が演出上自然ですが、ギャンブラーのパートはテクニックのデモンストレーションです。ギャンブラー自身が両手でカードを混ぜるためにデックは邪魔なのでケースにしまったという体です。しかし、この作品のようにワンアヘッドどころかツーもスリーも先を行く手順はマジシャンにとって本当に魅力的ですね。
Chapter 4 - Hide a Leaf
葉を隠すなら森の中にという慣用句の話から始まり、一枚のカードが四枚のパケットの中で消えたり現れたりした後に最後は予想外の現象が起こります。
もうね、導入がとにかく素晴らしいです。マジックを創作する上でこれほどのスタート地点はなかなか思いつくものではありません。ダニ・ダオルティスがこの作品を演じたらきっとスゲーだろーなぁと思いを馳せました(笑)私もヤマギシルイさんの改良アイデアと同じく厚川昌男さんの「フォールスドロー」を迷わず使う派です。最後はギャンブラーズコップの方が私は演じやすいですね。弄る人によって面白い解決法が色々出てきそうで今後の発展が楽しみなプロットだと思います。
Chapter 5 - Process of Elimination
ビドルトリックのバリエーション。観客が選んだカードがデックに戻され、観客が自由にカットしたところから出てくる、かと思いきやそこから五枚以内に辛うじて入っていました。マジシャンはその五枚から消去法で当てようとしますが意外な結末が待っています。
著者が最後の台詞を言いたいがために作られたような作品です。技術的に特に難しいところはなく準備もいらない手軽さの割にきっちりクライマックスがある構成なので使い勝手の良いトリックだと思います。私も最後の台詞が言いたいので演じてみます(笑)
Chapter 6 - Six Card Brainwave
エイトカード・ブレインウェーブの六枚バージョン。
最初マックス・メイビン?と思ったのですがカードの構成とセリフの妙、そしてサイコロを使う演出がピタッとはまっていて感心しました。私はユージン・バーガーさんのように頭の中でサイコロを振らせることが多かったのですが、これからはキューブも使ってみようかなと思いました。で、さっき道具箱を漁ってみたらアクリルではなかったですが白いブランクダイスがやっとオレの出番かい?って感じで出てきました。ほったらかしててゴメンね(笑)
Chapter 7 - Subliminal Effect
赤青二組のデックを使った実験と称して片方のデックからマジシャンが選んだ任意のカードを「サブリミナル効果」で観客に無意識に認識させるという面白い演出です。刺激を受けたおかげでまだアイデア段階ではありますが思いつけたことがあり、うまくいけばデックは一組で演じられるかも。クリアしないといけない問題がいくつもありますが、そういう楽しみを与えてもらえるのは有り難いです。
Chapter 8 - Following
フォロー・ザ・リーダーの著者のバリエーション。
赤五枚、黒五枚と構成枚数は少なめですが、私もこれくらいサラッと演じる方が好みです。最初のカウント一枚目が技術・角度的にやや厳しく思えますが、パケットのボトムを見せることで現象回数を本来よりも多く印象付ける手法はとても効率的で参考になりました。
Chapter 9 - Red Ocean & Blue Ocean
赤青二組のレギュラーデックから抜き出した十五枚のパケットでおこなうカードアクロス。
準備がいりませんので赤青二組のデックを使用する作品の後に続けて演じることができます。(よく考えたらそんなシチュエーションあまり無いですけど。)私が演じたことのあるカードアクロスはレギュラーだとロン・ウィルソンの”ハイランドホップ”、ギミックカードものだとヘンリー・ハーディンの”ストレンジ・トラベラーズ”などで「色違いパケット」はややこしくなる印象があり敬遠していましたが、これを読むとちょっと色違いパケットにも手を出したくなりますね。
Chapter 10 - A Tale of Ten Travelers
これは私も大好きなパズルでマーティン・ガードナーの手順でよく演じていました。この作品のようにレギュラーカードで演じる方が私も好みです。余録の文章量が本の中でダントツのトップであることからも、この作品に対する著者の愛が伝わってきます。
Appendix A - Ideal & Reality Deck
あの有名ギミック・デックを使って結婚式などでサロン的に演じられるアイデア。演出はもちろん技術的な難易度も下がる優れたアイデアです。ヤマギシルイさんのアイデアもプロならではのモノで合わせて使うとさらに効果的だと思います。幸せ溢れるお祝いの場って、いつ呼ばれても良いものですよね。
Appendix B - Two-person Zero-sum Game
正直オマケとするには勿体ないスゴイ原理だと思います。最初はホントに?と思ってしまうのですが、やってみると本当に出来ちゃいます。スゴイです。筆者の言う通り、決着がつかないパターンの問題をクリアしたいところです。しかし多くの場合は問題なく決着がつくのでそんなに気にすることではないかもしれません。今後の発展期待度ナンバーワンの作品ではないでしょうか。
Appendix C - The Gift of the Magician
特別な人に特別な贈り物をするときだけに演じられる特別なマジックです。粋です。お洒落です。イケメンです。ある意味、この作品集の中で最も難易度が高いマジックです(笑)